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肩腱板損傷

肩腱板損傷とは?

 肩腱板損傷は、肩腱板断裂ともいいます。
 肩はおもちゃのけん玉に似た構造で、上腕骨の上の部分が急になっていて、肩甲骨の横についている受け皿の部分で回転することで動く関節です。
 これを動かすのは、外側の筋と内側の筋です。
 内側の筋群はインナーマッスルともよばれ、その正体は「腱板」と呼ばれる4つの筋腱(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋)からなっています。
 これらは肩の前、上、後ろにあって、肩が様々な方向に運動するのに役立っています。横から腕を挙げる動作は三角筋などのアウターマッスルが上方へ、そして腱板が内方へ収縮する事により、腕の骨が上がるわけです。

 腱板が切れてしまうと、腱板の上にある柔らかい部分(滑液包)が強い炎症をおこし腫れたり、充血したり、水がたまったりします。このため、たとえ動かさなくても肩の痛みが起きてしまいます。この痛みは、寝ている姿勢でより強くなることがあります。
 切れる原因は、転倒や打撲で肩に急激に強い力が加わった場合だけでなく、肩を使う仕事や元々の骨の形などで徐々に擦り減って切れていく場合があります。

 切れた部分が広がったり、切れたまま重労働や激しい運動を繰り返したりすると腱の破れた部分を通して骨どうしが衝突を起こし、骨の変形を起こす事もあります。
 したがって損傷の程度をきちんと診断し、各患者さんの仕事や年令にあった治療方法を選ぶ事が大切になります。

 腱板損傷は、レントゲンにはうつらないために以前は「五十肩」として片付けられてしまった場合も多かったと思われますが、近年では軟部組織用超音波検査やMRI機器で損傷の部位や大きさを正確に判定できるようになってきました。

肩腱板損傷に対する治療法

当院では、腱板損傷に対して以下のような治療方法で対応しています。

1.保存療法
 徐々に擦り減って切れた場合は、その間に切れていない腱が代わりに働くようになったりしてあまり痛みを感じない場合もあります。このような場合は手術を行わず、注射、投薬、リハビリ訓練などで疼痛の改善を図れる場合があります。
 肉体労働やスポーツ活動があまり無い方、疼痛が薬などで抑えられる場合は、通院による方法で対処できます。ただし、切れた部分は、飲み薬や注射などを行ってもふさがるわけではありません。自然につながることもありません。

  

2.手術方法
 おおむね75歳未満で腕を使う仕事や運動をする方、保存療法での改善があまりみられない場合、手術方法を検討する事になります。     
 当院では、手術はほぼ全例内視鏡、関節鏡で行います。
切開の手術に比べて
・傷が小さい
・浅い部分の正常な筋肉や腱を傷つけない(瘢痕形成が少ない)
・痛みが少ない
・リハビリが早い
・創が感染するリスクが少なく、傷の治りも早い
などといったメリットがあります。さらに内視鏡では拡大して見えるので、より細かい修復が行え、小さな損傷部分も見逃さないというメリットがあります。
 ただし、技術が高度なため長年経験してきた医師による操作が必要です。当院では、肩関節鏡手術が開発された約15年前から長年この手術を続けている医師により執刀・治療が行われています。

  

①関節鏡視下肩腱板修復手術
 完全に断裂した部分の修復は手術しかありません。しかし、70歳をこえている方や断裂後長期の時間が経っている場合には、縫合が困難な場合もありますので事前の検査と充分な相談が必要です。
 骨を削ったり腱を修復したりする全ての処置を関節鏡にて行う方法です。大きい断裂や2本以上の腱が切れた場合でも、当院では関節鏡にて行っています。 
 多くの場合、腱の断裂は骨から剥がれるように切れてしまいます。骨の部分に骨に埋め込む小さなアンカーと呼ばれるスクリューを打ち込み、このスクリューの頭の部分についている腱修復用の縫合糸に腱を縫合することで、腱の断端を骨に圧着させます。アンカーには、金属製のもの、PPEKと呼ばれる樹脂材料のもの、吸収して骨に変わるものなどがあり骨の状態によって使い分けます。
 腱の断端を骨に縫合するだけでなく、より強固な修復を行うために、当院では患者さんに応じて以下のようなテクニックを併用しています。

(1)内側列と外側列の2列固定(Dual-row法)
 切れた腱の断端は多くの場合、水平に断裂が入っており、上下の2層に分かれています。このような場合、そのそれぞれで固定すると通常の縫合より固定が良く、再断裂なども起きにくいことが報告されています。

(2)ブリッジ固定法
 腱の断端部分をより広い面積で骨に圧着させるために、断端の内側と外側のアンカーの糸を橋渡しして上から圧迫させる方法です。結び目が少ないことも修復に利点が多いとされています。

  

(3)自家大腿筋膜移植法
 4本ある腱板のうち複数切れて切れ目が大きく、断端が退縮してしまっている場合、切れた部分を引っ張っても修復出来ない場合があります。このような場合、これまでは修復をあきらめ、滑膜の切除や骨の凹凸変性部分のみを処置することも行われていました。
 しかし、当院ではできるだけ元の形状に修復するために、大腿部から筋膜を採取し、これを継ぎ当てに用いて大きな欠損がある場合でも関節鏡を見ながら修復を行う方法を採用しています。これにより肩機能の確実な再建をめざしています。